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徳次は、その云ひ慣れない「往診」といふ言葉を口の中で物をころがすときのやうに珍しげに云つて見た。何か特別な響きがあつた。その時、急に彼は房一が医者だといふことを思ひ出していた。
徳次は指で真似をした。
だが、やつぱり戻らないで、しきりとこつちを見ながら行く。
「ウシ!ウシ!」
「坊は?」
真黒い顔の男が傍によつて訊いた。
「それあ、しかし、何だな、知吉さんも今まで不服だつたのをこらへていたんだな、何分かの理窟はあるわけだね」
さう呟きながら、下手を眺めた。
「さうです、一寸」
「つい今日まで挨拶にも行かずじまひになつてね、どうも済まなかつた」
と、云ひながら徳次の肩をつかんで押しもどした。誰もが疲労のための一種煤すゝけじみた鎮静を現していたにもかゝはらず、練吉だけは明かにまだ興奮していた。と云つて悪ければ、恐しく深い印象を与へられたものの如くであつた。そして、一応の取調べを受けに、二人の責任者が参考人として自動車に乗せられ、本署のある町まで同行を求められたときに、練吉は自分も乗う込まうとして加藤巡査にひきとめられた。
「をかしな男だな」